不安定な勝利 unstable Victory 2003 5 15

 名門の進学校の生徒がこう言っていました。
土曜日が、学校が休みとなってよかった。
今まで授業に退屈していたんだ。
あまりに授業の進度が遅くて、うんざりしていた。
これで、土曜が休みなので、
マイペースで勉強ができる。
遅い授業につきあって、遅れてしまった分を土曜日に取り返せる。
だいだい私立の連中は、やたらと先に進みすぎている。
それが不安なのだ。
 今までは、勉強ができる生徒にとって、授業というものに、
その行動が縛られていたが、
つまり、授業というものが、一種のはどめとなっていたが、
今では、足かせとなる授業が少なくなったので、思う存分、
自分のペースでやりたいことができる時間が増えた。
 授業時間を減らすゆとり教育というものは、
こういう生徒にとってはメリットになります。
 昔は、授業時間が非常に多くて、
この授業時間の多さが、勉強のできる生徒の、
勉強の速度の足かせとなっていました。
なにしろ、授業の速度に合わせるのですから、
勉強の早い生徒にとっては、ペースダウンとなります。
 こういうことだと思います。
授業というものは、
勉強のできる生徒にとって、ブレーキの役割を果たしています。
ゴルフで言うところのハンディキャップみたいなものです。
これで、授業が減れば、どうなるか。
勉強のできる生徒はマイペースで勉強ができるようになります。
それは、普通の生徒から見れば、マイペースではなくて、猛烈なスピードに見えます。
 授業時間を減らせば、
勉強のできる生徒は、さらに勉強ができる生徒になり、
そうでない生徒は、さらに勉強ができなくなり、
学校における生徒の勝ち組と負け組がはっきりしてきます。
 しかし、これは不安定な状態なのです。
クラスのなかで勉強のできる生徒は、10%ぐらいです。
残りの90%は負け組、競争から脱落した生徒です。
学力という点で、上位10%の集団が、残りの90%を支配するという状況は、
一見、勉強ができる生徒が勝ち組として、そうでない生徒を、
安定的な勝利で支配をしているように思える。
 しかし、残りの90%の生徒に不満がたまり、やがて、
勉強という分野では太刀打ちできないので、
授業を妨害したり、テストをボイコットしたり、
まるで、テロのような行為に走ります。
 勉強ができる生徒にとって、授業が妨害されるのはかまわないが、
実力テストが妨害されて、実力テストが中止になっては、
せっかくの活躍の場がなくなってしまうと不安になります。
これで、勉強のできる生徒にとって、勝利が不安定となります。
 授業時間を減らすことにより、確かに自由な時間が増えましたが、
しかしこれでは、かえって、以前に比べて、不安定さやリスクが増えたことになります。
また、残り90%のなかから、上位10%になってやろうとする生徒がでてきます。
結局、競争の激化と不安定さをもたらしたのです。
そして、勝ち組と負け組の格差が開くことになったのです。
生徒の自由のために行なった教育改革が、不安定さと競争の激化を招いたのです。
自由のための改革が、大部分の生徒にとって不安定さと競争の激化になったのです。